重粒子線治療および光子線治療の高度化へ向けた研究開発を理工学の視点から行っている。高精度線量分布測定機器開発、線量プロファイル評価のための機能性光材料開発などの重粒子線計測手法の開発、フォトンカウンティングCTの開発など治療技術の高度化に資する研究を行っている。
さらに、医理工生命医科学融合医療イノベーションプロジェクトにより、がん細胞の分子的な解析と理解に基づくがん治療法の開発、せん断波を用いた映像法による乳がんの新しい診断装置開発、ナノ・マイクロ加工技術を用いた高感度バイオセンサの創製など医療ニーズに立脚した基礎研究並びにリバーストランスレーショナルな先端医療開発研究を展開し、国際的な医療イノベーションを目指す研究を行っている。
職名 | 氏名 | 学位 | 所属 |
教授 | 関 庸一 | 工学博士 | 大学院理工学府・電子情報部門 |
教授 | 飛田 成史 | 理学博士 | 大学院理工学府・分子科学部門 |
教授 | 花泉 修 | 工学博士 | 大学院理工学府・電子情報部門 |
教授 | 櫻井 浩 | 博士(工学) | 大学院理工学府・電子情報部門 |
教授 | 山田 功 | 博士(工学) | 大学院理工学府・知能機械創製部門 |
教授 | 山越 芳樹 | 工学博士 | 大学院理工学府・電子情報部門 |
教授 | 曾根 逸人 | 博士(理学) | 大学院理工学府・電子情報部門 |
教授 | 神谷 富裕 | 理学博士 | 大学院理工学府・電子情報部門 |
教授 | 武田 茂樹 | 工学博士 | 大学院理工学府・分子科学部門 |
教授 | 山口 誉夫 | 博士(工学) | 大学院理工学府・知能機械創製部門 |
准教授 | 栗田 伸幸 | 博士(工学) | 大学院理工学府・電子情報部門 |
准教授 | 加田 渉 | 博士(工学) | 大学院理工学府・電子情報部門 |
重粒子線治療においては、照射の精度を向上させ腫瘍の以外の正常組織への照射線量を低減することが求められている。重粒子線の飛程は電子密度に依存するため、体内の電子密度分布を正確に求める必要がある。そこでフォトンカウンティングCTという新しいX線CTシステムを開発し、体内の電子密度分布を正確に求める手法を研究している。
電子線やイオンビームを用いたナノ・マイクロスケールの加工技術で形成したマイクロカンチレバ(片持ち梁)やSiナノワイヤを用いたバイオセンサの研究を進めている。これまでに、1滴の溶液中に対象分子が数100個しか含まれていないフェムトモル(fM = 10-15 mol/L)という超低濃度の抗原と抗体の検出に成功した。また、不妊治療における良好胚選別と出生率向上を目指して、体外受精卵の質量を高精度測定する技術を世界に先駆けて研究している。
次世代の重粒子線がん治療におけるマルチイオン照射やLET(線エネルギー付与、Linear Energy Transfer)ペインティング技術の治療品質管理には、幅広いLET分布に対応でき、LETの分布の差異を反映したRBE(生物学的効果比)を加味した線量計測が可能な半導体を基盤とした線量計が必要となっている。本研究室では、シリコン検出器に加えてダイヤモンドやSiCといったワイドバンドギャップ半導体を用いた検出器や周辺回路を開発し、重粒子線の線量評価を行なう手法を研究している。国外で分野をリードする豪州ウーロンゴン大学と連携しながら、同検出器の実用化を目指す。
重粒子線ががん細胞に当たるとがん細胞はゲノムDNAに損傷を受けて死滅する。ただし、傷ついたDNAを直すしくみ(DNA修復機構)が働くとがん細胞が生き残ってしまう。そこで、さまざまなヒト培養細胞を用いて、ヒトのDNA修復機構を明らかにしようとしている。また、がん免疫療法を効率化するためにがんワクチンの開発を行っています。がんワクチンの生産にはカイコを用いることで、安価に安全なワクチンを供給できる体制を整える。こうした取り組みとは別に、細胞内情報伝達系を解析することで、がん細胞を含むさまざまな細胞が刺激に応答する仕組みを研究している。たとえば、がんが大きくなるとその周辺が酸性になるが、がん細胞が酸性環境下に適応する仕組みを解析する。
先進がん治療技術である重粒子線がん治療や放射線診断技術の治療的応用(Interventional Radiology; IVR)など、医療現場の治療・診断それぞれの垣根を飛び越えた融合的な放射線利用が広がっている。ここで、医療従事者、患者双方で不要な局所被曝は避けるべき喫緊の課題となりつつある。しかしながら、例えば水晶体の被ばく線量を低減させるICRP勧告に対して現状では対応する検出器も確定していない。本研究室では、機能性発光材料を開発し、様々な放射線の現場において利用可能な線量評価技術を開発している。一例として、ウエアラブルデバイスとしての眼鏡型線量計(図参照)を開発し、X線などの照射場での評価を通じて汎用化が可能なデバイスの実現を追求している。図示の例では、CT化での医師が左半身に被曝が集中する想定のもと、左目に照射した場合の応答を照射量を変えて可視化している。放射線医学綜合研究所ほか国内外で分野をリードする大学・研究機関と連携しながら、簡便かつ高精度な線量計の実装を目指す。